「蕎麦」という漢字はなぜ「そば」と読むのでしょうか?
ここではその理由についてまとめると共に、そばに関して同じくらい興味深い話題をふたつ、それに加えて解説しています。
「もりそば」「ざるそば」「せいろそば」をどう区別したらよいのかという問題、そして「年越しそば」を何故、そしていつ食べると良いかという問題についてです。
目次
蕎麦の名前の語源について
大昔の日本語では、蕎麦のことを「そばむぎ」あるいは「くろむぎ」と呼んでいました。
「そばむぎ」の「そば」とは日本の古語で「尖ったもの」や「(物の)かど」を意味しています。
これは蕎麦の原料であるそばの実が三角形をしていて、角があることに由来しています。
一方の「くろむぎ」は、そばの実を乾燥させると黒褐色になることに由来しています。
ただし、平安時代以降、「くろむぎ」は、そばをあらわす名称として使われることはなくなりました。
(「くろむぎ」は、後の時代にライ麦の別名として使われるようになります。)
もうひとつの「そばむぎ」という名称はその後も使われ続けますが、室町時代に入ってからは「むぎ」が省略されて「そば」と呼ばれるようになりました。
そば粉は江戸時代に入るまでは、熱湯を加えてもち状にした「そばがき」として食べることが普通でした。
今日のように細長く切ってたべるようになったのは、江戸時代以降のことです。
この食べ方を最初のころは「そばぎり」と呼んでいました。
蕎麦の漢字の由来とは!?
蕎麦は前記の通り、もともと「そばむぎ」と呼ばれていたものを省略して呼ぶようになったものです。
したがって「蕎」という字は単独で「そば」と呼ぶこともあります。
「蕎」の字は「尖ったかど」を意味する「稜角(りょうかく)」という字に関連しています。
述のとおり、蕎麦の実は小さいながらも三角形で、尖った角(つまり稜角)があるからです。
また薬膳では蕎麦のことを「きょうばく」と呼ぶこともあるようです。
ざるそば・もりそば・せいろそばの由来や違いとは!?
蕎麦といっても、色々なメニューがあります。
しかし中にはどう区別するか分からないものもあります。
「ざるそば」「もりそば」「せいろそば」の間には一体どのような違いがあるのでしょうか?
上にもみ海苔が乗っているのが「ざるそば」、乗っていないのが「もりそば」と区別するだけでよいのでしょうか?
それなら「せいろそば」はどうなるのでしょうか?
実はこの3種類の区別は、現代ではあいまいになってしまい、ほとんど違いがありません。
ただしこの3種類の言葉には別々の由来があって、それが現代まで続いています。
「もりそば」は、「かけそば」の誕生に伴って生まれた言葉です。
江戸時代に「蕎麦切り」が食べられるようになった当初は、蕎麦に汁をつけてたべる方法が一般的でした。
しかし、やがて庶民のリクエストに応え、先に汁を蕎麦にかけて提供する「かけそば」という食べ方が生まれ、これまでの汁をつけてたべるスタイルのものは、これと区別するために「もりそば」と呼ばれるようになりました。
「ざるそば」は江戸の中期に深川にあった「伊勢屋」という店が考案したものです。
それまで蒸籠や皿にのせて提供していた蕎麦を竹の「ざる」にのせて提供し、涼しさを演出したのです。
これが庶民の間に評判になって「ざるそば」ということばが生まれました。
さらに明治時代にはいると、「ざるそば」の上にもみ海苔をのせて高級感を演出するようになりました。
当時はつゆもざるそば専用のものをアレンジして提供していたそうです。
「せいろそば」とは、蒸籠に盛り付けた蕎麦のことです。
「せいろ(蒸籠/蒸篭)」とは調理器具の一種で、木や竹で作った枠に「すのこ」を敷いて蒸気が通るようにしたものです。
茶碗蒸しなどの蒸し料理に使われます。
江戸の初期には蕎麦を「せいろ」で蒸して温めて提供していた時代がありました。
また同じく江戸の後期になって、お客に提供する蕎麦の量を減らす代わりに、底上げした「せいろ」に山盛りに盛ることでかさ上げして、実質的に値上げを図ったことも由来のひとつです。
大晦日に年越しそばを食べる意味や由来について
年越し蕎麦は、大晦日に縁起をかついで蕎麦を食べる習慣のことをいいます。
なぜ食べるのかという理由については、いくつかの説があります。
最も良く知られた説は、蕎麦は細く長い食品なので「長寿延命」や「家運長命」などの願いを込めて、縁起をかついで食べるようになったという説です。
また鎌倉時代、博多の承天寺で、恵まれない人のために「世直し蕎麦」(鎌倉時代なので「蕎麦がき」だったのでしょうか)を年末に振舞ったら、翌年から町の住人たちに色々と良いことが起こったため、大晦日に蕎麦を食べるようになった話もあります。
その他にも、
- 「蕎麦は他の麺類より切れやすいことから、一年に経験した苦労や災厄を切り捨てて新しい年に持ち越さないよう願って食べる説」
- 「蕎麦は多少の風雨にもめげず日光を浴びるとすぐ元気になる丈夫な植物であることから、健康を願って食べた説」
- 「蕎麦が五臓の毒を取ると信じられており、そのため体の中を清めて新年を迎えようと食べる説」
- 「金細工師が金箔を伸ばす時や飛び散った金粉を集めるときに蕎麦粉を使うため『金を集める』と縁起をかついでたべる説」
などがあります。
年越し蕎麦はどの時間に食べるの!?
年越し蕎麦は、大晦日の夕食の時か、12月31日から1月1日に日付が変わる頃に食べるのが一般的です。
例えばテレビで除夜の鐘が鳴るのを聞きながら、家族で蕎麦を食べる、といった感じです。
地方によっては元旦の1月1日になってから食べる地方もあります。
たとえば、会津地方(現在の福島県会津若松市)のあたりには、元旦に蕎麦、1月2日に餅、1月3日にとろろご飯を食べる習慣の家もあるようです。
年越し蕎麦を食べる時間というのは、地方によって家庭によって、さまざまなルールがあることが分かります。
まとめ
「蕎麦」ということばに関して、いくつかのエピソードをまとめてみました。
その由来、どうしてこのような漢字を使うのかということ、ややこしい「もりそば」「ざるそば」「せいろそば」の区別、そして年越し蕎麦を食べる時刻と理由についてです。
日常当たり前のように食べている食品に、ユニークな物語が存在することが、とても興味深く、面白いと感じます。