パンは当たりまえのように、日本人の生活に溶け込んでいます。
しかし、西洋から到来した食べ物であることは間違いありません。
いったいパンはいつ日本に到来して、どのように私たちの生活に溶け込んで行ったのでしょうか?
ここではパンにこだわって、そのルーツを追いかけることにします。
目次
パンの名前の由来って何!?
「パン」ということばの由来はポルトガル語のパン(pão)です。
安土桃山時代(1573年 – 1603年)にポルトガルの宣教師が西洋のパンを日本に伝えました。
その少し前、1543年に種子島に漂着したポルトガル船が、鉄砲とともにパンを伝えています。
この「パン(pão)」ということばをさかのぼってみると、ラテン語で「パン」や「食料」のをあらわす「パーニス(panis)」という単語に行き着きます。
スペイン語のパン(pan)、フランス語のパン(pain)、イタリア語のパネ(pane)も、同じようにパーニス(panis)から派生した表現です。
パン屋さんのことをベーカリーと言う理由とは!?
パンを売る店は単に「パン屋」でよいはずですが、近頃は、英語のベーカリー(bakery)ということばを使う場合も多いようです。
ただし注意しなければならないのは、bakeryはbake(焼く)ということばを元にしているので、「自分のところでパンを焼いて販売している店」のことを意味している、ということです。
工場から仕入れたパンをそのまま売っているだけのお店は、正確には「ベーカリー」を名乗ることはできません。
つまり近頃ベーカリーと名乗る店が増えてきた、ということは、職人さんが作った焼き立てのパンをそのまま販売する形式の店が増えてきた、ということに他なりません。
日本のパンの歴史とは!?
パンの材料となる小麦の栽培は、日本においても弥生時代から行なっていたようです。
しかし生地を発酵させて作るパンは、前記の通り、1543年になるまで知られることはありませんでした。
イエズス会の宣教師と共に日本にやって来たパンは、彼らのキリスト教の布教と共に日本国内へ広まりました。
しかし実際にそのパンを食べていたのは宣教師や貿易商人たちが中心で、一般の庶民にそれほど広まったわけではありませんでした。
しかしキリスト教の禁止に伴う鎖国令に伴い、パンは日本国内から長崎の出島のような特殊な場所を除いて、完全に姿を消すことになりました。
やがて日本が開国し、西洋文化が入ってくると共にパンの文化も再び日本に入ってくるようになります。
当初、米食に慣れた庶民にはなかなかパン食は広がらなかったものの、やがて「あんぱん」「ジャムパン」「クリームパン」「カレーパン」など、現在の私たちにもおなじみの菓子パンや惣菜パンが普及するようになります。
このような流れは第二次世界大戦による原料不足で一度度途切れてしまいます。
しかし戦争が終わるとアメリカから大量の小麦が届けられてパン作りも復活しました。
この時期の日本人に大きな影響を与えたのは、アメリカからの援助物資の小麦粉と、ユニセフ等の援助物資である脱脂粉乳による学校給食の実施です。
この給食が大きな影響を与えたためか、昭和30年代から日本でのパンの消費量は急速に増え、今日に至っています。
色々なパンの種類の名前の由来をご紹介!
「食パン」の由来
日本のパンで最もポピュラーなものは、おそらく「食パン」でしょう。
食パンのルーツとなったのは、1862年に来日したロバート・クラーク氏が開いた「ヨコハマベーカリー」のパンです。
ビールのホップ種を使い、石窯で焼いたパン(今で言うイギリス風の山形食パン)は大変美味しく、真似して焼いた他の店のものは、食べられたものではないと言われていたとか。
日本の一般のベーカリーでは、あんぱんやクリームパンなどの菓子パンが先に評判になりました。
ヨコハマベーカリーが焼いていたようなパンのブームが起こるのは技術が発達した後の時代のことで、菓子パンとは違う「食事用のパン」として「食パン」と名付けて店先に並べたということです。
食パンの由来には、他にもさまざまな説がありますが、関東大震災や第二次世界大戦の空襲などで資料が焼けてしまって、詳しいことはわからなくなってしまいました。
「あんぱん」の由来
「あんぱん」は、1869(明治2)年に創業した「木村屋」が1874(明治7)年に発売しました。
翌年には明治天皇への献上品にもなりました。
和洋折衷の結果生まれたものと誤解されがちですが、オリジナルの「あんぱん」は、パン生地を酒種でふくらまして、桜の花の塩漬けをトッピングした和菓子に近い感覚で食べられるパンでした。
「ジャムパン」の由来
ジャムパンも、同じく木村屋が1900(明治33)年に発売したものです。
ジャムパンはビスケットにジャムをはさんだお菓子をもとに、考案されました。
「クリームパン」の由来
クリームパンは、1901(明治34)年に創業した中村屋が1904(明治37)年に発売しました。
元になったのはシュークリームです。
シュークリームを食べた創業者夫妻が、このクリームをあんぱんの餡の代わりに使うことを思いついたことが、クリームパンのはじまりです。
「コロネ(コルネ)」の由来
円錐形の巻き貝のようなパン生地の中に、カスタードクリームやチョコレートクリームを絞り込んだコロネは、日本生まれの菓子パンです。
しかしその名前の由来はイタリア語です。
角笛やホルンをあらわす“corno”という単語がもとになっています。
「フランスパン」の由来
パリッと固い皮とふわふわの白い中身が魅力的なフランスパンは「フランス風のパン」という意味で作られた日本語です。
さまざまなジャンルのあるフランスのパンの中でも、特に「パン・トラディショナル」と呼ばれている、小麦粉、酵母(イースト)、水、塩だけで作られたパンのことを意味します。
明治時代の日本で孤児院を経営していたフランス人神父が子どもにパン焼きの技術を身に着けてもらうためフランス領インドシナに派遣しました。
やがてある信者が、帰国した彼やその技術を受け継いだ職人と共に作り上げた店が「関口フランスパン」と名付けられ、それが「フランスパン」の由来となりました。
まとめ
パンのルーツを、いろいろな角度からまとめてみました。
「パン」ということばはポルトガル伝来であることと、日本におけるパンの普及は「キリスト教の宣教」「明治時代の文明開化」「第二次世界大戦後の給食の普及」の3つのキーワードを通じて語ることができることが、その歴史をふりかえるとわかります。
多くの人にとって身近な「パン」ですが、英語名の「ブレッド」というでは普及しなかったことを考えると、日本におけるポルトガル文化の影響は相当に根強いものがあるということも、感じました。